九州大学 整形外科学教室
九州大学大学院医学研究院臨床医学部門
外科学講座整形外科学分野

研究紹介
生体材料・力学研究(股関節)

中島康晴教授の指導のもと、濵井 敏、川原慎也、佐藤太志、原 大介および大学院生(北村健二、原田 知、原田哲誠、柴原啓吾、國分康彦、山手智志、リハ藤田努)で担当し、主に股関節の形態的、動態力学的及び生体材料学的研究を行っています。以下に主なテーマについて紹介します。

 

生体股関節の3次元形態

これまでの研究成果(Fujii M et al, JBJS-A 2010, CORR 2011&2012; Akiyama M et al, Skeletal Radiol 2012; Nakashima Y, CORR 2015)を基に、形態的研究をさらに発展させています。DDHにおける寛骨臼のversionと大腿骨前捻、それらの和であるcombined anteversion(CA)の臨床的な病的意義として、疼痛発症年齢との関係を検討した結果、臼蓋後捻のない典型的形態のDDHで、いずれも負の相関を認めました。特に、CAが大きいほど若くして発症しており、CAは生体股関節においても有用な指標であることを報告しました(Kohno Y et al, CORR 2015)。

 

また、大腿骨head-neck junctionにおける全周性の形態評価を行い、DDHでは頚部前上方のくびれが少なく、cam変形の頻度が正常大腿骨より高いことが分かりました(図1)。Cam変形の頻度はOAの病期とも関連しており、DDHのcam変形は、骨盤骨切り術後の二次性FAIを引き起こし得るため、時にosteochondroplasty併用が必要という観点から注意を要する変形と思われます(Kohno Y et al, JOR 2016)。

図1 DDH進行期OA症例のcam変形(黄矢印)

 

THAにおけるポリエチレン(PE)摩耗

THAにおける摺動面の摩耗はTHAの最も大きな不安因子でしたが、crosslinked PEの導入による状況は変化いたしました。教室では2000年に導入しましたが、conventional PEの年線摩耗は0.1㎜を超えていたのに対し、crosslinked PEではその1/10以下の摩耗であり、随伴して骨溶解の症例は見事に減少いたしました(Sato T et al, JOR 2012; Nakashima Y et al, JOS 2013; Hamai S et al, JMBBM 2016)。

 

3次元ソフトを用いた可動域シミュレーション

3D-CADソフトを用いて寛骨臼移動術やTHAの術後可動域(Hirata M et al, Int Orthop 2014 & 2015; Komiyama K et al, J Arthroplasty 2016; Sakemi Y et al, J Orthop Sci 2018)に関するシミュレーションを行っています。寛骨臼移動術後の二次性FAI やTHAの術後脱臼に影響を及ぼす重要な因子としてインピンジメントがあり、図2のように骨同士やインプラント同士、もしくはインプラントと骨とのインピンジメントまでの角度を可動域と定義します。日常生活に必要な可動域を満たすための、骨切り部の移動量やインプラント設置の条件を明らかにすることを目的としています。

図2 THAの術後可動域シミュレーション

 

股関節の3次元動態解析

九州産業大学生命科学部(日垣秀彦教授)との共同研究で、イメージマッチング法を用いた生体股・THAの3次元動態解析を行っています。健常股と比べて変形性股関節症では、しゃがみ込み動作の際に、骨盤後傾の増加で股関節の可動域制限を代償していることを明らかにしました(Hara D et al, Biomed Res Int 2014, Clin Biomech 2016)。THA術前後のスクワット動作を解析した結果、術前の股関節可動域制限は術後有意に改善しており、適切なcup設置であれば最大屈曲時にもcup・stem neck間に十分なクリアランスがあることを報告しました(Komiyama K et al, J Orthop Surg Res 2018)。術後の脱臼予防や動作制限、インプラントの選択や設置へのフィードバックに役立つことが期待されます。THA後のゴルフスイング時における解析では、図3のように最大外旋時にネック・エレベートライナー間での接触する症例を認めるものの、動作中に過度の回旋や不安定性を認めず、術後のスポーツ活動として許可できることを報告しました(Hara D et al, Am J Sports Med 2016)。

図3 THA後のゴルフスイング

 

Femoroacetabular impingement(FAI)は、臼蓋大腿骨の形態異常に起因する病態ですが、特に深屈曲動作での疼痛誘発が特徴であり、骨形態だけではなく股関節動態を加味した評価が重要です。イメージマッチング法により、FAIに対する骨軟骨形成術前後のインピンジメント及びクリアランスの視覚化を行いました(図4)。今後も、FAIの正確な評価、手術手技へのフィードバックに役立てていくことが期待されます(Yoshimoto K et al, Skeletal Radiol 2017, Int J Surg Case Rep 2017)。

図4 FAIに対する骨軟骨形成術前後の動態解析

 

新しい人工骨としての炭酸アパタイトブロックの開発

九州大学歯学部との共同研究で、炭酸アパタイト(CO3Ap)ブロックの開発・評価を行っています(Tsuru K, Kanazawa M et al, Materials 2017)。これまで骨の無機組成と同成分であるCO3Apのブロックを生成することは、焼結による熱分解によって困難でした。リン酸水素カルシウム二水和物を前駆体としたCO3Apブロックの生成が可能となり、今回動物実験の結果(図5)、ハイドロキシアパタイト(HA)と比べてCO3Apブロックの優れた吸収性を明らかにしました(Kanazawa M et al, J Mater Sci Mater Med 2017)。骨形成に関しても優れた結果が得られており、今後HAやβ-TCPに変わる新しい骨補填材として普及していくことが期待されます。

図5 炭酸アパタイト(CO3Ap)とハイドロキシアパタイト(HA)の吸収性評価
 

DDHの股関節鏡所見

DDH患者の関節内病変に影響する因子について検討した結果、骨形態指標のうち、骨頭被覆の減少が関節軟骨変性と相関する一方で、荷重部傾斜角の増大が関節唇断裂と相関していることを報告しました(Fujii M et al, Arthroscopy 2016)。また、X線画像上の関節裂隙と実際の関節軟骨変性との関連について検討した結果、X線で予想されるより実際の軟骨変性は進行しており、DDHにおいては軟骨下骨露出のcut-off値は3.7mmであることを報告しました(Nakashima Y et al, Modern Rheumatol 2017)。

 

寛骨臼移動術の成績評価

これまでの研究成果(Fujii M et al, JBJS-B 2011; Hamai S et al, Int Orthop 2014)をさらに発展させるべく、臨床成績の評価を継続して行っています。TOA術前後のスポーツ活動を調査した結果、スポーツ参加率は術後有意に増加した一方で、関節症進行への影響は認めませんでした(Hara D et al, Am J Sports Med 2017)。進行期股関節症に対するTOAの長期成績を調査した結果、THAへの移行をendpointとした生存率は15年で80%、20年で59%でした(Hamai S et al, Orthopaedics 2018)。

 

THA術前後のスポーツ活動調査

高齢化社会の到来により、変形性関節症に代表される関節疾患は増加しています。関節症が進行すると、痛みのために歩行障害をきたし、日常生活に著しい制限が生じてしまいますが、THAは、その痛んだ関節を人工物で置換することにより、劇的に痛みを緩和する手術です。当科におけるTHA術前後のスポーツ活動を調査した結果、スポーツ参加率は術後有意に増加しており、ウォーキングや水泳、山登り、ゴルフなどを楽しんでおられました(Hara D et al, J Arthroplasty 2018)。

 

THA後の筋力回復

DDHに対するTHAにおいては、しばしば原臼位へのcup設置が困難な場合があります。インプラント設置位置が術後の外転筋力に与える影響を検討したところ、原臼位よりも15mm以上cupを上方へ設置した群では、術後の外転筋力の回復が遅れることが分かりました(Fukushi JI et al, Orthop Traumatol Surg Res 2018)。

 

(文責:濵井 敏)