九州大学 整形外科学教室
九州大学大学院医学研究院臨床医学部門
外科学講座整形外科学分野

研究紹介
脊椎脊髄疾患研究

当グループの目標は、患者さんへの治療応用や整形外科学の発展に貢献できるよう、新しい情報をトップレベルのサイエンスとして世界に発信することです。これまでに多くの優れた成果を挙げ、我が国の整形外科基礎研究を牽引しており、当グループで研究を行なった多数の大学院生が日本整形外科学会奨励賞を受賞しています(岡田誠司、熊丸浩仁、小早川和、原正光、貴島賢)。

脊椎脊髄疾患の中でも、脊髄損傷は永続的な四肢麻痺を呈する特に重篤な疾患です。これまでは治療が不可能と考えられておりましたが、近年の幹細胞生物学の発展により、神経幹細胞やiPS細胞などを用いた再生医学の研究が世界中で広く行われております。当研究グループに於きましても、幹細胞移植治療だけでなく、脊髄損傷の病態形成や修復に関わるシグナル分子・遺伝子の探索を行っており、多方面からの新しい治療法の開発研究を精力的に進めております。特に、セルソータを用いた生着細胞の選択的回収法、ギガシークエンサーを用いた網羅的な発現遺伝子解析や、浸潤炎症細胞の定量解析法などを駆使し、多くの成果を上げています (Saiwai et al., AJP 2010, Saiwai et al., JCP 2011, Saiwai et al., J Neurochem 2013, Kumamaru et al., JNI 2012, Kumamaru et al., JCP 2012, Kumamaru et al., Stem Cells 2013, Kumamaru et al., Nat Commun 2012, Kubota et al., Spine 2012, Kubota et al., Spine 2013, Kobayakawa et al., Science Transl Med 2014, Kobayakawa et al., Science Advances 2019, Yokota et al., Stem Cell Repo 2015, Yokota et al., Sci Repo 2016, Yokota et al., AJP 2017, Hara et al., Nat Med, 2017, Yokota et al., Mol Brain, 2019, Yoshizaki et al., JNI, 2019)。

しかし、動物実験においても脊髄損傷に対するこれらの細胞移植の効果はまだまだ微々たるものですし、なぜ機能が改善するかというメカニズムも現時点では殆ど明らかにされておりません。安全性と確実な治療効果が得られる新たな治療法の開発に向けては解決すべき課題が山積みであり、私どももその解明の一端を担えるべく研究に励んでおります。

 

最近の大きな成果としては、これまで哺乳類の中枢神経系で再生がおこらない主因と言われる『グリア瘢痕』が形成されるメカニズムを明らかにし、せき損後のグリア瘢痕を抑制することが新たなせき損の治療法に繫がることを証明しました(Hara et al., Nat Med 2017)。また、マクロファージ自身の遊走がせき損後の修復機構に関わっていることを解明しております(Kobayakawa et al., Science Advances 2019)。

一方で、臨床の脊髄損傷に関しても総合せき損センターとの強力な連携により、せき損患者さんの臨床データに基づいた研究を進めています(Okada et al., Spine 2009, Okada et al., Neurosurgery 2011, Kubota et al., Spine 2012, Kobayakawa et al., Science Transl Med 2014, Okada et al., Spine J 2014, Kijima et al., EBiomed 2019, Yoshizaki et al., Spinal Cord 2019)。損傷後の高血糖が麻痺の予後に与えることや、急性期の血清亜鉛濃度が麻痺の予測に有用であること、痙性の機能的意義などを明らかにしており、少しでも麻痺の予後を改善し患者さんの福音に繋がる治療戦略の確立に向けて努力しております。

 

また、当研究室には神経だけでなく、靭帯や筋肉、骨を研究しているものもおり、整形外科医ならではのオリジナリティーの高い研究を推進しております。これまでに、マウスモデルを用いた非侵襲的な側弯モデルの確立に成功し、両側の肋骨から椎体へかかる左右の力学的不均衡が側弯の発症や進行に関わっていることを明らかにしました(Kubota et al., JBJS 2013)。また、腰部脊柱管狭窄症の主因である黄色靭帯の肥厚に、マクロファージの浸潤が重要であることなどを見出しました(Saito et al., Plos One 2017, Saito et al., AJP 2017)。また、筋肉損傷後の修復にペリオスチンが関わっていることを報告しています(Hara et al., JBJS 2018)。これらの成果は原因不明であった側弯症や黄色靭帯肥厚の病因解明に新しい知見をもたらしています。

 

研究内容等にご興味を持たれた方は岡田 seokada@ortho.med.kyushu-u.ac.jpまでご連絡いただければ幸いです。

(文責:岡田誠司)