九州大学 整形外科学教室
九州大学大学院医学研究院臨床医学部門
外科学講座整形外科学分野

研究紹介
骨軟部腫瘍研究

腫瘍グループ基礎部門は、教官3名(松本 嘉寛・遠藤 誠・薛 宇孝・藤原 稔史)、大学院生4名(中川 亮 <国立中央がんセンター>・八尋 健一郎・木村 敦・島田 英二郎)のメンバーで主に以下のテーマで研究を行っております。
 

1: 骨軟部肉腫における薬剤耐性メカニズムの検討

Mult-kinase阻害薬であるpazopanib (PAZ)は肉腫における初めての分子標的治療として承認され、軟部肉腫の2nd-line chemotherapyの有効な手段となっています。しかし、PAZが初期に有効であっても、投与が長期化するにつれ徐々に耐性化する例があり、新たな問題となりつつあります。そこで、滑膜肉腫細胞株のPAZ耐性株をいち早く樹立し、その耐性化メカニズムの検討を開始いたしました。その結果、PAZは親株の細胞周期をG1/S期で停止させること、耐性株ではErk情報伝達系が活性化され、G1/S期停止が回避されていることを見いだしました。さらに、Erk阻害剤によりPAZ耐性が克服されることを確認しております。臨床的に極めて高いインパクトを持つ結果であり、早期の臨床応用を目指しています (Yokoyama et al., Scientific Report, 2017)。

一方、本邦で開発された新しい薬剤であるEribulin(Eri)は、腫瘍細胞の微小管伸長を阻害し、抗がん作用を示し、軟部肉腫に対しても有効です。しかし、実際の使用にあたり耐性化を来す症例を既に経験し臨床的に大きな問題となっていました。そこで、平滑筋肉腫の細胞株SK-LM-S1をEri濃度を漸増しながら培養し、耐性株を作成しました(耐性株)。耐性株を解析した結果、Eri投与により生じるG2/M arrestが耐性株では回避されていたこと、また、そのメカニズムは耐性株においてclass Ⅲ β-tubulinの発現が増加したためであることを見出しました。今回の検討により、平滑筋肉腫におけるclass Ⅲ β-tubulinの発現レベルにより、Eriの奏功性を事前に推測することが可能になると予想され、今後のテーラメード医療につながる極めて臨床的意義の高い結果と思われます(Yahiro et al., Anal cellular Pathol, 2018)。
  

 

 

2: 低酸素誘導因子HIF-1を標的とした骨軟部腫瘍治療法の開発

悪性末梢神経鞘腫瘍(Malignant peripheral nerve sheath tumor: MPNST)は、急速な増大傾向を示すにも関わらず、化学療法、放射線治療に抵抗性であることが多く、治療にはしばしば難渋します(図1)。腫瘍の増大に伴い、腫瘍内部は低酸素環境となり、低酸素誘導因子Hypoxia Induced-factor 1(HIF-1)が誘導されます。近年、HIF-1の発現に伴い、癌腫では血管内皮細胞増殖因子VEGFの誘導や、アポトーシス耐性が生じ、腫瘍の悪性化が進行する事が報告されていますが、骨軟部肉腫におけるHIF-1の役割はほとんど解明されていませんでした(図2)。

今回、約400種類に薬剤ライブラリーをスクリーニングしたところ、HIF-1の阻害剤がMPNST細胞株に殺細胞効果を持つ事、siRNAによるHIF-1の発現阻害によりMPNST細胞株にアポトーシスが生じることを見いだしました。また臨床的にもHIF-1の高発現がMPNSTの独立した予後不良因子であることも確認、HIF-1がMPNSTの治療標的、ならびに有効なバイオマーカーとなることを証明しました(図3)。HIF-1を標的としたMPNSTの分子標的治療の開発が期待されます(Fukushima et al., PLOS one, in press)。

 

                            図 1

                            図 2

                             図 3
 

3: 骨軟部腫瘍に対する新規腫瘍免疫療法の開発

昨今の癌治療における最大のトピックは免疫チェックポイント阻害剤を中心とした、腫瘍免疫療法の進歩です。体内に本来備わっている免疫システムを有効に利用することで、悪性黒色腫、肺癌などでは多発転移例に対しても寛解例が見られるようになっています。

骨軟部腫瘍領域においても、骨肉腫やEwing肉腫、脂肪肉腫などへ炎症細胞が浸潤されていることが知られてます。そこで、骨軟部腫瘍に対する免疫細胞の浸潤を網羅的に解析するとともに、自然免疫を保ったC3H系マウスを用いた骨肉腫肺転移モデルを作製し、骨軟部腫瘍に対する新規免疫療法開発のための基礎的研究を開始いたしました。短期間で成果を挙げるべく、これまでのリソースを活用して実験を進めております。
 

これからも悪性骨軟部腫瘍で最も問題となる転移、薬剤耐性化を中心に、臨床医の観点から見た、特色のある研究を続けていく所存であり、難治例の治療成績向上を目標としております。
 

(文責: 松本 嘉寛)