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転移性脊椎腫瘍に対するバルーンカイフォプラスティ (Balloon Kyphoplasty : BKP)

准教授 松本嘉寛

  1. 背景

胃や肺などの臓器にできた「がん」はしばしば骨へ転移し、がんで亡くなる症例のおよそ30%に骨への転移があると言われています。その中で最も多いのが脊椎への転移です(転移性脊椎腫瘍)。転移性脊椎腫瘍は、強い痛みや手足の麻痺を引き起こし、患者さんの日常生活の質を低下させ、がんそのものの治療の継続を困難にします。

転移性脊椎腫瘍の治療の基本は、薬物治療や放射線治療ですが、それらの治療によっても痛みが改善せず治療が困難な例がしばしばあり、とても大きな問題となっていました。

そこで、転移性脊椎腫瘍により、圧迫されてつぶれた脊椎の骨の中に、安全に骨セメントを注入して補強する治療法が開発されました。新治療法は「バルーンカイフォプラスティ(BKP)」と呼ばれ、当院でも積極的にこの治療に取り組んでいます。

 

  1. BKPの実際

BKP手術は、手術室でX線透視装置も使って行われます。患者さんはうつぶせになり、X線の透視下で、背中側からつぶれた骨に2ヵ所の小さな穴を開けて、細い管状の手術器具を差し込みます。次に骨の中でバルーン(風船)を膨らませて、つぶれた骨の形を元に戻した後,バルーンを抜いて、空いた空間に骨セメントを詰め、固まらせて脊椎を安定化させます(図1)。

手術後のX線ではつぶれた椎体にセメントが注入され、形が復元していることがよくわかります (図2)。

BKP療法は全身麻酔下で行われ、手術といっても創は5mm程度の2つの針穴だけですみます。したがって侵襲が少なく、がんにより、体力が低下してる時も、全例ではありませんが多くの場合実施可能です。

 

  1. 適応、一般的な経過

痛みの強い転移性脊椎腫瘍で、脊椎の後壁が保たれている症例です。転移性脊椎腫瘍の場合には、一回の手術で3椎体まで保険適応が認められています。また手術翌日から痛みの程度に応じて歩行可能であり、早い場合には数日で退院が可能となります。

 

  1. BKPのメリット、デメリット

一番のメリットは、出血や手術の傷などが非常に少ない事です。また、原発不明がんで脊椎転移をきたした例ではBKPの時に椎体内の組織生検が可能であり、原発巣を同定することも可能です。

デメリットとしては、骨セメントが脊椎外の血管内へ漏れて、肺塞栓症を起こす危険性があります。しかし、BKPでは風船を用いてセメントを注入する隙間を作るため、その頻度をゼロではありませんが、かなり低く抑えることができます(0.4%程度)。また、BKPを行なった椎体の上下で、新しい骨折を生じることもあります(隣接椎体骨折)。その場合も再度の手術が可能です。

 

  1. 結論

BKPにより、これまで全身状態が不良で、手術ができなかった転移性脊椎腫瘍の患者さんの痛みを和らげることができるとともに、化学療法などの治療が続けられる可能性が増え、予後の延長効果もあると期待されます。

福岡県内でもBKPを転移性脊椎腫瘍に対して積極的に取り組んでいる施設は少なく、がん診療拠点病院として九州大学病院でも推進していくべき治療法と考えます。

 

 

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