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San Diego留学だより

Department of Molecular Medicine, Scripps Research

 

平成22年卒の倉員 市郎と申します。2021年10月より米国カリフォルニア州サンディエゴにあるScripps研究所のProf. Lotz Labに留学させていただいております。この度、留学便り執筆の機会を与えていただきましたので、サンディエゴでの生活をご紹介したいと思います。

 Scripps研究所

Scripps研究所は、米国西海岸最南端のサンディエゴという街にあります。研究所にはTorrey Pines Golf Courseという名門ゴルフコースが隣接し、ゴルフコースの奥には太平洋が広がり、青空の中にはパラグライダーが浮かんでいて、サンセットは美しく、Labから一歩外に出るとリゾート感満載の景色が広がります。基礎研究分野では世界的に有名な研究所であり、昨年は同研究所のProf. Patapoutianがノーベル医学・生理学賞を受賞し、研究所内も大いに盛り上がりました。Scripps研究所の周囲にはUniversity of California San Diego(UCSD)やSanford Burnham Prebys研究所、Salk研究所などの名門研究機関が密接しており、サンディエゴはこれまでに多くの同門の先生方も留学されていた研究の街です。私が所属しているLotz Labは、私が大学院生の時にご指導いただいた赤崎幸穂先生が留学されていたLabで、大学院時代には赤崎先生を通じて共同研究をさせていただいていたこともあり、留学先の一番の候補に挙がりました。そこで、学位審査後に中島教授より留学の許可を頂いた後に、赤崎先生の次に同Labに留学された戸次大史先生に取り次いでいただき、2020年2月のORSでの発表で渡米した際にLabの見学とProf. Martin Lotz(普段はMartinと呼んでいますので、以下Martin)との面談をさせていただくことができました。Lotz Labではこれまでにも多くの日本人研究者を受け入れており、Martinは日本人(の英語力)にとても理解がある心優しい教授です。面談では戸次先生も一緒に立ち会っていただき、最終的には赤崎先生にもプッシュしていただき、無事に留学を受け入れてもらうことができました。Martinは変形性関節症の基礎研究の世界的な権威であり、遺伝子改変マウスや網羅的解析、ドラッグスクリーニングなどを用いて、変形性関節症の治療ターゲットや治療薬の探索を行っています。また、東京医科歯科大学の浅原弘嗣先生もLabを併設されていて、現在は私を含めて6人(うち1人はAsahara Lab)のポスドクが所属しています。出身はアメリカ、ドイツ、中国、日本(3人)で、それぞれのバックグラウンドも多様であり、色々な知識や刺激をもらいながら過ごす毎日です。隔週水曜日に全体ミーティングがあり、ポスドクが持ち回りで実験の進捗状況をプレゼンします。また、毎週木曜日にはMartinと個別でのミーティングがあります。英語でのディスカッションに四苦八苦していますが、なんとか頑張っています。

Scripps研究所とサンディエゴの青空:この建物の1階にLabがあります

 

Labからの風景:柵から手前がScripps研究所、Torrey Pines Golf Courseの奥には太平洋のサンセット

 

Prof. Patapoutian(中央でサングラスをかけてマイクを持っている男性)のノーベル賞受賞祝賀パーティー

 

LabメンバーとThanksgivingに海辺でランチ(一番右がProf. Lotz, 隣が筆者)

 

研究

私は2016年に大学院に進学し、軟骨研究グループで軟骨分化や変形性関節症のメカニズムについて研究し、特にFOXOという転写因子についての研究を行いました。FOXOは長寿遺伝子として知られており、FOXOを活性化させた線虫は寿命が延長し、ヒトでの遺伝子解析においても、FOXO遺伝子のSNPが長寿に関与する可能性が示唆されています。また、FOXOはオートファジーという細胞の恒常性維持に重要な仕組みを制御しており、Martinは世界に先駆けて軟骨細胞の恒常性におけるFOXOの重要性を証明しました(留学当時の赤崎先生らの仕事です)。これまでに、年齢とともにFOXOの発現や活性が低下し、変形性関節症の一因となることが分かっていますが、現在の私の研究テーマの一つは、このFOXOを活性化させる薬剤を探索し、変形性関節症の治療薬候補を同定することです。ご存知の通り、変形性関節症に有効な治療薬・予防薬は未だ存在せず、世界中の研究者がその開発に向けて取り組んでいる大きなテーマです。その分、なかなか理想的な薬剤を同定することは困難で、うまくいかないことばかりですが、未来の変形性関節症治療にとって何かを残せるように努力を続けていきたいと思います。

COVID-19

当初は2021年4月からの留学予定でしたが、なかなか収束の目処が立たないCOVID-19流行を考慮し、留学を半年遅らせて、10月に渡米しました。その半年間は中島教授にご配慮いただき、研究生として大学に身を置かせていただきました。当時の医局長の濱井敏先生と池村聡先生にも大変お世話になり、ありがとうございました。それでも渡米時の成田空港は未だ閑散とし、フライト直前の最後の和食にと当てにしていた回転寿司屋もたこ焼き屋も休業しており、ハンバーガーとの2択の結果、中華料理屋で最後の晩餐を取りました。逆に、飛行機の中は空席だらけでしたので、快適な空の旅となりました。到着したサンディエゴの街は、日本とは異なり、COVID-19が流行している割には、スーパーもレストランも公園も制限は解除され、普段通りの生活が繰り広げられていましたので、セットアップも大きな問題なく行うことができました。Labでも大人数でのin personでのミーティングが禁止され、onlineでのミーティングになっていること以外は特に制限なく仕事を開始することができました。私は2度のワクチンを接種して渡米しましたが、ブースターはこちらで接種しました。こちらでは近所の薬局で接種することが可能で、日本よりも手軽にワクチンを接種できます。私自身は、自宅近くの大学病院の駐車場で、ドライブスルー接種を受けました。運転席の窓越しに接種され、近くに駐車して15分経過観察し、問題なければ帰宅という流れでした。サンディエゴは元々、多くの日本人留学生で賑う街だったようですが、COVID-19流行後はやはり留学生が減少しています。以前はサンディエゴ整形外科の会が存在していたとも聞きましたが、今現在では私を含めて3人しか日本人整形外科医の留学生はいません。しかし、その分、交流は深くなりますし、短期の臨床留学で来られる整形外科の先生方もおられますので、やはり留学は貴重な出会いの場だと思います。これからまた世界を気兼ねなく行き来できる世の中に戻ることを切に祈るばかりです。

渡米時の閑散とした成田空港国際線カウンター

 

San Diego生活

何と言っても天候が素晴らしく、年間を通してほとんど雨が降りませんし、夏もそこまで気温は上がらず、冬もそれほど気温が下がらずと、とても暮らしやすい環境です。日系スーパーも充実し、日本の食材や調味料も割高ですが、ほぼ全て揃います。ビーチや動物園、水族館、レゴランド、セサミプレイスなど見所も盛りだくさん。少し車を走らせればLAにもすぐに行けます。サンディエゴで一度生活してしまった日本人は口を揃えて日本に帰りたくないと言いますが、全くその通りです。しかし、近年は問題点も。インフレ。。。特に家賃が高騰しています。University Cityと呼ばれるUCSD周辺のエリアでは、私が渡米した際にはすでに1ベッドルームで$3000/月スタートでしたし、時期にもよりますが、今はもっと上がっている様です。幸運にも、私たちは安めの物件に入ることができましたが、それでも福岡とは比べ物になりませんし、アメリカ全体でも家賃は高騰していると聞きます。ガソリンや食料品の値段なども上昇し続けていますので、これから留学を希望される先生は頑張って日本で貯金されることをお勧めします。そんなUniversity Cityエリアには、治安の良さと勤務先の研究施設や大学が近いという理由で、日本人家族が集まっています。特にDoyle公園は日本人の聖地のようになっていて、行けば誰か日本人家族が遊んでいますので、たくさんの知り合いができます。COVID-19流行により数は減っているものの、内科や外科、耳鼻科などの先生が研究留学されており、他大学の整形外科以外の先生方と知り合えるのは、やはり海外ならではの経験ではないかと思います。医師以外にも、基礎研究をメインでされている方、製薬会社などの企業から派遣で来られている駐在の方や、UCSDのMBAコースに留学されている金融系企業の方々とも知り合うことができました。おおよそ同じくらいの年代ですので、皆さんのお話はとても刺激になりますし、家族ぐるみでのお付き合いも増え、自宅の庭でBBQをしたり、釣り好きの方には船釣りに連れて行ってもらったり、野球好きのご家族とは大谷翔平選手所属のAngelsやダルビッシュ有選手所属のPadresの試合を一緒に見に行ったりしました。面白いのが、アメリカでは釣りのスケールも大きく、この釣り好きの友人はマグロ釣りに執念を燃やし、帰国の1ヶ月前に、2泊3日の釣行で、とうとう念願のマグロを釣り上げました。その翌日にはマグロ解体パーティーが行われ、美味しいマグロを堪能させてもらいました。私は日本では九大整形サッカー部に所属していましたので、サッカーの話も少ししておくと、アメリカではあまりサッカーは人気がないと思っていましたが、そんなことはなく、公園では子どもから大人までサッカーを楽しんでいる姿を日本以上によく見かけます。先日、LAにレアル・マドリード対ユベントスの興行試合を観戦しに行きましたが、会場は大いに盛り上がっており、アメリカのサッカー熱を感じました。そして私もScrippsの草サッカーチームにたまに混ぜてもらっていますが、アメリカ人の足の長さと体幹の強さには驚きました。日本では通るコースのパスが長い足に引っかかりますし、何気なくぶつかった体はダンプカーの様で、ぶつかった瞬間に自分の頚椎から変な音が2回して、整形外科医としてうまく説明できないのが悔しいのですが、何かが外れて戻ったような感覚でした。今後もケガをしない程度にアメリカのサッカーを吸収しようと思います。

船釣りでRockfishゲット!サイズは小さいですが、アメリカでは貴重な刺身を食べることができました

 

友人宅でのマグロ解体パーティー

 

草サッカー

 

まとめ

留学生活を通して、公私共にとても貴重な経験ができています。特に、国籍を問わず、留学しなければ出会えなかった人達と交流できていることが一番の財産であり、日本人の方々は帰国後も交流を続けていきたい人達ばかりです。海外留学について背中を押してくださった中島教授をはじめ、赤崎先生、戸次先生、相談に乗っていただいた多くの先生方に心より感謝申し上げます。また、海外生活では、相談に乗ってくれる現地の日本人の存在がとても大きく、実際に私も多くの人に助けてもらっています。これから留学される先生方には、少しはアドバイスできることもあると思いますので、いつでもご連絡いただければ嬉しいです。それでは、今後も研究に邁進し、留学生活を満喫しようと思います!

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