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Stanford留学だより

Department of Orthopaedic Surgery, Stanford University

 

平成24年(2012年)卒の遠矢 政和と申します。2021年10月より、アメリカカリフォルニア州、ベイエリアにあるスタンフォード大学整形外科のGoodman Labに留学させて頂いております。今回留学だよりを寄稿させて頂くこととなり、私自身の留学生活について記述させて頂きます。

スタンフォード大学と九州大学整形外科の繋がりは長く、私で15代目のポスドクとなります。今回は主に私自身が留学前に感じていた不安や疑問、実際のカリフォルニア生活について書かせて頂こうと思います。

私が留学だよりを拝読する際は、どうしてもまず真っ先に写真に目がいってしまいます。そこで今回はなるべく多くの写真を供覧させて頂きたく、Figure形式で報告致します。結果として個々の写真はかなり小さくなってしまいましたがご容赦ください。本寄稿の目的は、可能な限り多くの先生方に留学生活の実際を知って頂き、「留学したい」と感じて頂くことです。

 

【カリフォルニア】

まず何よりも初めにお伝えしたいのは、その「ブルースカイ」です(Figure 1A)。例えるなら日本はグレースカイで、初めて現地に着いた時には衝撃を受けました。毎日こういう空を見れるとは夢にも思いませんでした。

ただし「カリフォルニア」は想像以上に広いです。カリフォルニア州は南北に1240kmと長く、州面積は日本国土全体の1.1倍です。カリフォルニア州にはロサンゼルス(Figure 1B)をはじめ、スタンフォード最寄りの大都市であるサンフランシスコ(Figure 1C)、サンディエゴ(Figure 1D)など多くの有名巨大都市が含まれますが、皆さんが想像するカリフォルニア気候は恐らくLAマッスルビーチのような常夏気候であり、私自身もそう思っていました。

スタンフォード大学があるベイエリアシリコンバレーの気候は、常夏と言うよりはむしろ常秋に近く、最高気温は20〜30℃、最低気温は10〜20℃がほぼ一年中続きます。湿度は限りなくゼロに近くほぼ汗をかかず、さらに雨もほとんど降らず(3〜11月はほぼ降らない)、ゴルフ前に天気予報を気に掛けることもなくなりました。唯一注意を要する点は、さすがに冬は寒いということです。11〜2月にかけての約3〜4ヶ月間は外出時にダウンをはおることも多く、夜は長袖が必要です。9月末に留学した私は渡米後まもなく冬を迎え、想像していた「カリフォルニア」とは異なる環境に心が折れそうになりました。しかしながら3月頃になると途端に暖かくなり、その後は再び不平不満なく快適な生活を送っております。あとから聞いた話によると、現地在住の方々もこの期間は抑うつ傾向になりやすいようで、10月末のHalloween(Figure 1E)、11月のThanksgiving Holiday(Figure 1F)、12月のChristmas Holidayと気分を晴らすイベントや休暇が多く、実労働期間はかなり短いのも特徴です。

Figure 1. (A)自宅から見る朝の景色。(B)LA近くのサンタモニカ、Route 66の終着点。(C)ゴールデンゲートブリッジ横断中。(D)人気のサンセットスポット。(E)本場アメリカでは家からシューターでプレゼントが配られていました(元Yahoo!のCEO、マリッサ・メイヤー宅にて)。(F)サンディエゴに留学中で大学院の先輩でもある倉員先生、内科からスタンフォードに留学中の杉尾先生ご家族と一緒にアナハイムのディズニーにて(お2人は同級生で私の部活の先輩でもあります)。

 

【Goodman Lab】

私が所属しているGoodman Labはこれまでにも九大整形の先輩方が留学されてきたラボです(Figure 2A,B)。Prof. Goodmanは研究はもちろんのこと、アメリカでの「家族生活の重要性」に対しても大変理解があります。ラボメンバーとはミーティングでは意見を交わし合いますが、オフになると家族を含めて交流があります(Figure 2C)。さらに私が渡米した時期には、私以外に日本人の先生が他に3名おり(神戸大学・大阪大学・佐賀大学、私含め4人とも同級生!)、家族も含め(合計子どもが9名!)大変心強かったです。整形外科の他のラボにも日本人の先生が2名(慶應大学・京都大学)おり、これまでの経験や現在の研究など皆で知識を共有しながら切磋琢磨しております(Figure 2D,E,F)。現在のラボの研究内容は骨代謝・慢性炎症・免疫を中心としており、私自身も早く論文がアクセプトされるよう努力しております。

Figure 2. (A)ミーティング後のランチをStanford Fuculty Clubにて。前列左から2人目がProf.Goodmanです(筆者は後列左から3番目)。(B)ラボは前年度に引越しして綺麗です。(C)佐賀大学から留学されていた平田先生の送別会を平田先生のご自宅にて。(D)Stanford整形外科の忘年会にて、左から壺坂先生(神戸)・平田先生(佐賀)・串岡先生(大阪)・前川先生(京都)・筆者。(E)中島教授のご盟友でもあるStanford整形外科現ChairmanのProf. Maloneyと。(F)2022年ORS。日本の先生方はほとんど来られておらず寂しかったです。

 

【日本人コミュニティ:ベイエリア整形外科の会・SMJA】

ベイエリア整形外科の会

九大整形からスタンフォードへ留学された歴代の先生方もお世話になっている会です。元々はベイエリア在住・留学中の整形外科関連日本人ネットワークだったのですが、コロナ禍によるオンライン化の流れを逆手に取り、現在では全米各地に留学中の整形外科の先生方も参加され勢力拡大傾向です。私は現在運営幹事を担当させて頂いており、2ヶ月に1回程のオンライン勉強会(Figure 3A)の他、定期的にBBQなども開催しております。私が渡米した直後にも歓迎BBQ会を開催頂き(Figure 3B)、私はもちろん不安を抱えて渡米してきた家族にとっても貴重な場でした。すでに日本に帰国されたOB会員も約50名程おり、日整会総会のタイミングに合わせてOB会なども開催しております。

SMJA: Stanford Medicine Japanese Association

今回私が渡米後に立ち上がった新たな会です。同じラボの同僚の先生が中心となり発足し、私も創立メンバーの1人として参加させて頂いております。会員のほとんどはStanford Medicineに留学中あるいはStanfordで臨床医として活躍されている医師ですが、企業からStanford Medicineに留学されている方なども会員として招待し、現在の総会員数は約100名です。これまでStanford Medicineで日本人が集結する正式なコミュニティはなかったようで、帰国後の交流は各自のネットワークに依存していたようです。発足後は定期的なHappy hour(Figure 3C)やグループメッセージなどを通して交流をはかり、研究はもちろんのことアメリカでの生活情報など些細な情報も共有しております。整形外科に限らずありとあらゆる科・企業の方と交流を持つことが出来るのが特徴で(Figure 3D)、帰国後の共同研究や企業連携なども視野に活動を行なっております。

Figure 3. (A)九大整形からDuke大学に留学されている中川先生(下段左)もオンライン勉強会に参加してくださりました。(B)UCSF整形外科リハビリテーション部門教授の長尾先生と、同じくUSCFの森岡先生が中心となり発足されました。(C)(D)各科の医師はもちろん厚生労働省や企業から赴任中の方もいて、楽しいだけではなくとても勉強になっています。

 

【アメリカでの家族生活】

留学を志す多くの先生方が気になるところかと思います。正直に申しまして、デメリットは家賃含めた生活費が高いことくらいで、幼い娘を3人抱えた我が家は日本よりもむしろ快適に過ごせております。

ベイエリアの家賃や物価は本当に高いです。日本の家賃・生活費の2〜4倍かかると覚悟しておいた方が良いかと思います。更には執筆現在、類稀なる円安とインフレに見舞われており、渡米当初と比較しかなり厳しい状況です(留学当初は1ドル=110円前後、現在1ドル=145円前後)。

ただし家賃や物価が高価であるということは、逆に言うと安全ということでもあります。アメリカには「安全はお金で買う」という格言があるそうです。留学中も銃乱射など心を痛めるニュースが多く報道されていますが、こと我が家は自宅外では平穏な生活を送っております。周りの方々もとにかく子どもに接する態度が優しく、日本よりも周りの目が気にならないというのが正直なところです。とは言え日本と異なり学校の送迎は必須で、私も朝の送りを担当しており、娘たちとの貴重なコミュニケーションの時間となっています。現地の小学校に通っている長女はすでにネイティブ化しており、様々な異なるルーツをもった友人達と、親も羨む英語力を駆使して平日・休日問わず楽しそうに遊んでいます。

上述しましたように、私の場合は日本人家族との出会いにも恵まれました。ラボ内に限らず、SMJAを通して同じ年頃の子ども達を持つ家族と接する機会が多く、休日は一緒にヨセミテやイエローストーンなどの国立公園に行ったり(Figure 4A, B)、ワインを楽しんだり(Figure 4C)、山登りやBBQをしたり(Figure 4D、E)、妻同士や子ども達同士もとても仲良くしております。そして留学を楽しむための最も重要なポイントはこの「家族が過ごしやすい環境」だと思います。「留学したら海外の友人を・・・」と当然思っていましたが、色々と深く話せるのは結局日本人同士であり、日本にいた時には出会うことのなかった素晴らしい友人家族と知り合いになれたことは貴重な財産で、帰国後も良い関係を続けていければと思っています。もちろん現地在住の家族とも交流がありますし、娘の友達の誕生会などはあまりにスケールが大きく家族一同驚愕しました。これもまた貴重な経験です。

子育てにおける日本との1番の違いは、自宅から少し外に出ただけでも遊具を備えた公園(大濠公園の子どもスペースのようなイメージ)が多数あり、子どもの遊ぶ環境が豊富なことです。公園はいつも親子連れで賑わっており、そこで新たな交流が生まれることも多いです。

Figure 4. (A)ヨセミテ国立公園。(B)イエローストーン国立公園。(C)ナパバレーへのアクセスも良好です。(D)(E)週末は毎週誰かに会っている気がします。

 

【ゴルフ】

私が留学生活で楽しみにしていたことの1つです。ゴルフ好きな方は是非読み進めください。

渡米当初は洋芝にかなり苦戦し、平均スコアもガクンと落ちたのですが、スイング修正とアプローチ練習で徐々に克服しつつあります。

自宅からスタンフォードへ向かうと、スタンフォード敷地内に入る直前に信号があり、右折するとスタンフォード敷地内に入ります。ただし右折直後にドライビングレンジ(Figure 5A)、さらにその少し先に練習グリーンがあり、駐車場に辿り着くことは極めて困難です。前述の交差点を試しに左折してみると、なんとすぐにゴルフ場です(Figure 5B)。Stanford Golf Courseは大学併設のゴルフ場ではありますが、アップダウンが激しく比較的距離もありグリーンも起伏に富み、アメリカの割にはターゲットが狭く、かのタイガーウッズが在籍していたことでも有名です。通勤路にゴルフ場とゴルフ練習場があるという夢のような環境でweekdayを過ごしております。

他にもカリフォルニアには素晴らしいゴルフコースが多数あります。PGAトーナメントが毎年行われ、定期的に全米オープンの開催地にもなっているペブルビーチ・ゴルフリンクス(Figure 5C,D)、ペブルビーチのすぐ近くにあるスパイグラスヒル、例年1月末のPGAファーマーズ・インシュアランス・オープンの開催地となっているトーリーパインズ、さらには自宅から30分圏内にもレイアウト・景観が美しいハーフムンベイゴルフリンクス(Figure 5E)、PGA Championship 2020の開催コースであるTPCハーディング(Figure 5F)など例を出すときりがありません。渋野日向子選手が優勝争いを演じたLPGAのメジャー「The Chevron Championship」も現地パームスプリングス(Golfer’s Paradiseと呼ばれる)で観戦させて頂き、とても勉強になりました(Figure 5G)。尚、渡米してから英語にはとても苦労しているのですが、なぜかゴルフトークだけは全く問題ありません。日本同様ゴルフを通じて様々な方と知り合いになることが出来ました。残りの在米期間、研究はもちろんゴルフも可能な限り楽しみたいと思っています。

Figure 5. (A)広大なドライビングレンジ、芝から打てないのが唯一の難点。(B)名物12H(442y/Par 4)にて同じラボの壺坂先生と。距離も必要かつフェアウェイに大木が2本あり狙いどころはかなり狭い。(C)ホールアウト後のレストランから見渡す18H。(D)名物Par 3(80y程)は強風に煽られパーオンならず。(E)奥に見えるリッツカールトンに向かい海沿いを進みます。(F)風が強く距離の計算がかなり難しい。(G)上から左回りに渋野日向子選手、リディア・コ選手、ブルック・ヘンダーソン選手に頂いたサインボール、家宝です。

 

【まとめ】

元々留学希望が強かったのですが、私が留学を決断する時期はまさにコロナ真っ只中、アジアヘイトなども報道されておりかなり躊躇しました。また留学に乗り気であった家族の賛成も得られず、一度は断念しようとさえ思いました。そんな中、中島教授や直接の指導教官であった赤崎先生はもちろん、数多くの偉大な先輩方から留学を後押しして頂き留学を決断することができました。今となっては、家族全員心の底からアメリカ生活を満喫しており、留学して良かったと思っています。親身になって相談に乗って頂いた全ての先輩方に、この場を借りて心より感謝申し上げます。

とは言え、辛いことが無いわけではありません。想像以上に英語が通じない、飛行機が簡単に遅延する、とにかく物価が高い、食事はやっぱり日本が美味しい、住んでるエリアは治安は良いがそれでもやはり不安、みんな適当過ぎる気がする、なんとなく毎日気が休まらない、など例を挙げればきりがありません。ただしそれらを差し置いても、私たち家族にとって留学生活のメリットはデメリットを優に上回ります。現在は円安など新たな問題も発生し、この先留学を希望する先生にとっては決断が難しい状況が続いているものと思います。留学に対してお悩みの先生がいらっしゃいましたら、時差を気にせずいつでもご相談ください。細かな情報も含めまして喜んで共有させて頂きます。

最後になりましたが、このような貴重な留学の機会を頂きました中島教授、歴代スタンフォードに留学された同門の先輩方、研修医時代を含めこれまでご指導頂きました全ての先生方に、この場を借りてあらためて感謝申し上げます。皆様に良い報告が出来るよう、残りの留学期間も精進致します。

 

 

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