大腿骨頭の一部(またはほとんど)が虚血により死んでしまう病気で、骨頭が陥没して痛みが起きます(図5)。原因は不明ですが、何らかの病気に対するステロイド治療やアルコール多飲と関連があるものがあります。30~50代の、いわゆる働き盛りの世代に起こることが多く、しかも日常生活に多大な支障をきたしますので、国が難病に指定している疾患の一つとなっています。
大腿骨頭壊死症に対する治療
変形性股関節症と同様に、痛みのために日常生活に支障をきたすことが多く、根本的な解決を図るためには手術が必要です。2010年から2015年の間に当科を初診された患者さまの中で、1年以上手術を行わずに経過を見られた方はおよそ15%で、その約半数は2年以内に手術を選択されていました。薬やリハビリなどの保存的治療では痛みのコントロールが難しいことを示していると思います。
当科で行っている手術は大きく二つに分けられます。一つは関節を温存する手術で、当科では骨切り手術を行っています。もう一つは人工物に置換する手術で、人工股関節全置換術と人工骨頭置換術を行っています。これらの手術適応の有無は、壊死の大きさや場所(骨頭のどこに壊死があるか)、関節変形の有無、年齢等で決まります。また、それぞれ入院期間やリハビリの方法も異なりますので、お仕事や家庭環境等も考慮して、患者さまと相談しながら治療法を決めています。
ここでは当科で行っている代表的な関節温存手術である大腿骨頭回転骨切り術についてご紹介いたします。
・ 大腿骨頭回転骨切り術(図6)
1972年に当科の第5代教授・杉岡洋一先生によって開発された関節温存手術で、”Sugioka’s osteotomy”として世界的に有名な手術法です。これは、骨頭の一部が壊死して陥没している場合、骨切りして骨頭を回転することにより陥没している部分を荷重部(体重がかかるところ)から逃し、陥没のない健常な部分を荷重部に移動させる手術です。荷重から逃れることにより壊死した骨の修復(再生)が期待され、壊死の存在しない股関節を再獲得できる可能性があります。近年では、本術式の際、圧潰した壊死部に存在する間隙にセメントを充填する再球形化を行うことで、更なる治療成績向上に努めています。簡単な手術ではありませんが、適切な手術適応や3次元的な綿密な術前計画、正確な手術手技、および適切なリハビリによって、長期的に関節温存が図れることが期待され、当科では年間10~20例程度行っています。
※関節温存手術ですので、手術のタイミングがとても大切です。いつでもできる手術ではありませんので、適応があってご希望される場合にはできるだけ早期の手術が望ましいと考えています。
当科を受診される患者さまへ
ここまで主な股関節の病気・治療について簡単に紹介しましたが、これ以外にも股関節の病気や治療法はあります。診察を受けられる際には経験豊富な担当医が詳しくご説明します。
九州大学整形外科ではこれまでに多くの股関節の患者さまを治療してきました。これはわたしたちの財産であり、行ってきた治療法の検証を重ねることで、より良い治療法を提供できるよう努めています。どうぞ、ご安心して受診されてください。